...凡そ府内の岡場所(おかばしょ)にして知らざる処なきに至る...
永井荷風 「桑中喜語」
...それは宇津木兵馬につれられて、甲州から江戸へ出たはずの金助で、「ちょッ、詰らねえな、俺たちはああして、茶屋から大見世(おおみせ)へ送られる身分というわけじゃあなし、岡場所か、銭見世(ぜにみせ)が関の山なんだけれど、それもこのごろの懐ろ工合じゃ覚束(おぼつか)ねえや、こうして吉原の真中へ入り込んで、景気のいいところを見せつけられながら、たそや行燈の数をかぞえて歩くなんぞは我ながら、あんまり気が利かな過ぎて涙が溢(こぼ)れらあ、なんとか工面はつかねえものかな」金助はこんなことを言いながら、声色屋(こわいろや)がお捻(ひね)りを貰うのを羨(うらや)んでみたり、新内語りが座敷へ呼び上げられるのを嫉(そね)んだり、たまにおいらんの通るのを見て口をあいたりしながら、笠鉾(かさほこ)の間を泳いでいましたが、「おやおや、ありゃあ、たしかに見たことのあるお侍だ、俺の見た目に曇りはねえはずだが、もう一ぺん見直し……」二三間立戻って、いま箱提灯に送られて茶屋を出た、二人連れの武士体(さむらいてい)の跡を逐(お)いました...
中里介山 「大菩薩峠」
...三十八「おお、松風、いいところへ」「どうして、ここがわかったエ」「いや、道中、ちっと聞き込んだものでごんすから、多分、丁馬親分や、安直兄いもこちらでごんしょうと、わざわざたずねて来やんした」「よく来てくれた、一人か」「ほかに、連れが一人ごんす」「じゃ、こっちへ通しな」「連れて来てようごんすか」「遠慮は要らねえ、友達かエ」「いや、わっしの川柳の師匠でごんす」「おや、川柳の師匠、てめえ洒落(しゃれ)たものを連れて歩いてやがるんだな」「師匠は江戸ッ子でごんす」「なに、江戸ッ子!」「およそ大名旗本の奥向より川柳、雑俳、岡場所、地獄、極楽、夜鷹、折助の故事来歴、わしが師匠の知らねえことはねえという、江戸一の通人でごんす」「そいつぁ、耳寄りだ」「天から降ったか、地から湧いたか」「丁馬親分――安直兄い、およろこびなせえ」「何はともあれ、その江戸ッ子の大通先生を、片時(へんじ)も早くこの場へ……」「合点(がってん)でごんす」暫くあって、ひょろひょろとこの場へ連れて来られた一人の通人がありました...
中里介山 「大菩薩峠」
...「嫌かい」「嫌ぢやありませんが――ね」「岡場所のドラ猫見たいな妓(をんな)の頬ぺたを舐めるんぢやねえ...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...なまじ岡場所の女どもに騒がれる金十郎の身持ちが...
野村胡堂 「銭形平次捕物控」
...御守殿お茂與といふのは一時深川の岡場所で鳴らした強(したゝ)か者で...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...岡場所なんかには...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...深川辰巳(たつみ)の岡場所が取りはらわれることになり...
久生十蘭 「顎十郎捕物帳」
...売色ところどころ岡場所の歌戦火に遭うまで大塚の花街に...
正岡容 「艶色落語講談鑑賞」
...泊る妓の蚊帳の向ふで櫛を替へ泊る妓の汗よけだけがつるさがり泊る妓の肌着になるとちぢこまりかんざしと櫛とを置いてスルリ寝る小待合蚊帳のつり紐ふと見かけニア人になると芸者のカレライスのめばいいんでシヨと芸者トヲ十五十二時が過ぎて待合おもしろし一誦よく岡場所の艶笑場面を賦して毫末も卑賤の感を与へないのはまことにまことに凡手ならざるものがあるではないか...
正岡容 「旧東京と蝙蝠」
...料理茶屋とか岡場所を集めようというもので...
山本周五郎 「赤ひげ診療譚」
...岡場所の一軒へ奉公にやられた...
山本周五郎 「赤ひげ診療譚」
...ともかく岡場所というのだろう...
山本周五郎 「七日七夜」
...ひところ岡場所(私娼)めいたものが出来たりして...
山本周五郎 「風流太平記」
...このとおりや堪忍して」「岡場所みたいなとこへ泊って...
山本周五郎 「へちまの木」
...遊里や岡場所を除くと...
山本周五郎 「山彦乙女」
...何処か岡場所に居たこともあるんだろう」「知らないわ」「じゃ...
吉川英治 「江戸三国志」
...岡場所の灯は、人生はここにありというように盛んである...
吉川英治 「新編忠臣蔵」
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