...実のところ其言を信じなかつた...
石川啄木 「悲しき思出」
...それは実のところたかの知れた倫理学を花や音楽で清めたもの...
岡倉覚三 村岡博訳 「茶の本」
...実のところは雷は嫌ひでも何でも無い...
薄田泣菫 「茶話」
...僕はわがマデライン嬢といったが、実のところ、彼女はまだ僕のものではないのである...
ストックトン Francis Richard Stockton 岡本綺堂訳 「世界怪談名作集」
...実のところまだどこへも御礼状もさしあげずに失礼しているわけなんだが――まことにおちおちねるところもなかったようなわけだったのでなんとも申しわけがないようなわけでいずれそのうち本でも出した節にはいささか御礼のつもりでさしあげたいと思っているが――かなり気になってはいた...
辻潤 「だだをこねる」
...――実のところ、私もそんなに長く生き永らえる自信は持ち合わせてないのであった...
豊島与志雄 「現代小説展望」
...と申しますのは、甚(はなは)だ我儘(わがまま)の次第でございますが、実のところ、わたくしの身体は只今、疲れ切っているのでございます、それに、ここに落着きまして、結構な天然のお湯に温められましてから、その疲れが一度に出てしまったような次第でございまして、たとえ、お雪ちゃんという子が山一重あなたにおりましても、今のわたくしのこの身体では、その山一つを越すのが堪えられますまいと案じられるのでございます...
中里介山 「大菩薩峠」
...実のところ、伊太夫の怖れを成したのは、この前から度々隠見する、湖上湖岸の物騒なる空気の動揺が然(しか)あらしめたもので、これが伊太夫の心持をも少なからず動揺させてしまいました...
中里介山 「大菩薩峠」
...その旦那が次のような歌をお詠(よ)みになりまして、鐚、どんなもんだ、点をしてくれろとおっしゃる、内心ドキリと参りましたね、実のところ、鐚も十有五にして遊里にはまり、三十にして身代をつぶした功の者でげして、その間(かん)、声色、物まね、潮来(いたこ)、新内、何でもござれ、悪食(あくじき)にかけちゃあ相当なんでげすが、まだ、みそひともじは食べつけねえんでげすが、そこはそれ! 天性の厚化粧、別誂(べつあつら)いの面(つら)の皮でげすから、さりげなくその短冊を拝見の、こう、首を少々横に捻(ひね)りましてな、いささか平貞盛とおいでなすってからに、これはこの新古今述懐の――むにゃむにゃと申して、お見事、お見事、ことに第五の句のところが何とも言えません、と申し上げたところが、ことごとく旦那の御機嫌にかなって、錦水を一席おごっていただきやしたが、実のところ、鐚には歌もヌタもごっちゃでげして、何が何やらわからねえんでげす、後日に至りやして、三一旦那から再度の御吟味を仰せつかった時にテレてしまいますでな、どうか、その御解釈のところを篤と胸に畳んで置きてえんでございます...
中里介山 「大菩薩峠」
...彼女はこの嘆かわしい事件について、しばしば話していたが、自分の余りにも信じやすい性格を嘆いて見せるのだが、実のところ、彼女は疑り深い雌猫なんかより遥かに疑り深い人間だったのだ...
バルザック Honore de Balzac 中島英之訳 「ゴリオ爺さん」
...いや天晴々々、当人を前においてこんなことを言うのも妙なもんだが、真実のところ、見なおした」三津五郎は、膝に手をおいて聴いていたが、顎十郎がいいおわると、静かに顔をあげて、「とんだお褒めで痛み入ります...
久生十蘭 「顎十郎捕物帳」
...事実のところザックバランに言えば...
久生十蘭 「顎十郎捕物帳」
...私は脈をとってみたが、実のところ、熱のありそうな様子はちっともなかった...
エドガー・アラン・ポー Edgar Allan Poe 佐々木直次郎訳 「黄金虫」
...実のところ、私はその時までお父様の方がお先立ちなされようとは想像だにしていなかった...
堀辰雄 「楡の家」
...お休みなさい」実のところ...
フレッド・M・ホワイト Fred M. White 奥増夫訳 「ギルレイ」
...「――然し、実のところ、これから遙々帰って、お婆さんとさし向いで飯を食うのかと思うと足も渋る」わざとぞんざいに、然し暖く叱るように幸子が云った...
「一本の花」
...実のところお願いなどできるわけのものではないのでございますが...
山本周五郎 「おれの女房」
...実のところ、腹がへっていてたまらないのだ...
吉川英治 「平の将門」
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