...――昨夜(ゆうべ)、宵のしとしと雨が、初夜過ぎに一度どっと大降りになって、それが留(や)むと、陽気もぽっと、近頃での春らしかったが、夜半(よなか)に寂然(しん)と何の音もなくなると、うっすりと月が朧(おぼろ)に映すように、大路、小路、露地や、背戸や、竹垣、生垣、妻戸、折戸に、密(そっ)と、人目を忍んで寄添う風情に、都振(みやこぶり)なる雪女郎の姿が、寒くば絹綿を、と柳に囁(ささや)き、冷い梅の莟(つぼみ)はもとより、行倒れた片輪車、掃溜(はきだめ)の破筵(やれむしろ)までも、肌すく白い袖で抱いたのである...
泉鏡花 「薄紅梅」
...そこで「とんとんと叩(たた)く妻戸を開けもせず……」という歌を読んでなじると...
高浜虚子 「俳句とはどんなものか」
...妻戸を打つ蟲の音のみ高し...
高山樗牛 「瀧口入道」
...妻戸がそつと明いて...
田山花袋 「道綱の母」
...道綱が出て往って、「さあ、どうぞ」と言って、妻戸をあけ、「こちらから――」と促すと、頭の君はそちらへちょっと歩みかけられたが、急に思い返したように後退(あとず)さって、「お母あ様にここへはいるお許しを願って下さいませんか」と小声で押問答していた...
堀辰雄 「ほととぎす」
...妻戸からおはいりになって来られた...
堀辰雄 「ほととぎす」
...今度は横の妻戸をあけさせてはいって行った...
紫式部 與謝野晶子訳 「源氏物語」
...月のさし込んだ妻戸が少しばかり開かれてある...
紫式部 與謝野晶子訳 「源氏物語」
...妻戸の室に敷き物を設けて几帳(きちょう)だけの隔てで会話がなさるべくできていた...
紫式部 與謝野晶子訳 「源氏物語」
...妻戸を薫はあけて...
紫式部 與謝野晶子訳 「源氏物語」
...供の人たちへの手前もあって家の上へは上がらず車の榻(しじ)という台を腰掛けにして妻戸の前で今まで薫は右近と語っていたのである...
紫式部 與謝野晶子訳 「源氏物語」
...二人は妻戸(つまど)口から裏へ出た...
山本周五郎 「樅ノ木は残った」
...妻戸も遣戸(やりど)もあけてあるので...
山本周五郎 「樅ノ木は残った」
...――踏み込め!と伊兵衛がまさに妻戸へ手を掛けようとした...
山本周五郎 「夜明けの辻」
...破られた妻戸が欄(らん)に仆れかかり...
吉川英治 「私本太平記」
...門の妻戸を押して外へ出ていたのである...
吉川英治 「新書太閤記」
...昼も妻戸をほのぐらく垂れこめて...
吉川英治 「親鸞」
...「もし……」閉めてある妻戸の境で...
吉川英治 「親鸞」
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