...けれども、どうも、それから後は、暗い、と申しても言ひ過ぎで、御ところには陽気な笑声も起り、御酒宴、お花見、お歌会など絶える事もなく行はれて居りましたが、どこやら奇妙な、おそろしいものの気配が、何一つ実体はないのに、それでもなんだか、いやな、灰色のものの影が、御ところの内外にうろついてゐるやうに思はれて、時々ゆゑ知らず、ぞつとする事などもございまして、その不透明な、いまはしい、不安な物の影が年一年と、色濃くなつてまゐりまして、建保五、六年あたりから、あの悲しい承久元年にかけては、もうその訳のわからぬ不安の影が鎌倉中に充満して不快な悪臭みたいなものさへ感ぜられ、これは何か起らずにはすまぬ、驚天動地の大不祥事が起る、と御ところの人たちひとしく、口には言ひませぬけれども暗黙の裡にうなづき合つてゐたほどでございまして、人の心も解け合はず、お互ひ、これといふ理由もなしに、よそよそしく、疑ひおびえ、とてもこの建暦二年の御時勢の華やかさとは較べものにも何もならぬものでございました...
太宰治 「右大臣実朝」
...作家が後もどりして、その評定に参加している図は、奇妙なものです...
太宰治 「風の便り」
...なぜかその一枚の紙片に奇妙な執着を感じたのである...
太宰治 「惜別」
...奇妙な事には、この女はあれほど私の詩の仲間を糞味噌(くそみそ)に悪く言い、殊(こと)にも仲間で一番若い浅草のペラゴロの詩人、といってもまだ詩集の一つも出していないほんの少年でしたが、そいつに対する彼女の蔭の嘲罵(ちょうば)は、最も物凄いものでございまして、そうして何の事は無い、やがてその少年と通じ、私を捨てて逃げて行きましたのでございます...
太宰治 「男女同権」
...ただに奇妙なその服装ばかりではない...
橘外男 「ウニデス潮流の彼方」
...奇妙な笑いが腹の底から込み上げて来た...
寺田寅彦 「柿の種」
...そこに立って境内を見渡した時に私はかつて経験した覚えのない奇妙な感じに襲われた...
寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
...ワトソン君、今度の土曜日の朝は、一つ一緒に出かけて行って、この奇妙な、不得要領(ふとくようりょう)な事件を、見事に結末をつけてしまおうじゃないかね?」私は正直のところ、この事件については、どちらかと云えば、危険性と云うよりも、変な得体の知れなさはあったが、しかし結局大したものではないと、この時までは考えていたのであった...
コナン・ドイル 三上於莵吉訳 「自転車嬢の危難」
...これまで一ぺんだって彼の腦裡に浮かんだことがあったものかどうか?』彼はこの疑問に奇妙な解決を與えた...
ドストエーフスキイ 神西清訳 「永遠の夫」
...私には奇妙な癖があった...
外村繁 「澪標」
...目的を同じうするこの悪戯(あくぎ)に似たるほどの奇妙な道連れは...
中里介山 「大菩薩峠」
...それもあの人に奇妙な工合に身体を廻させただけだったのです...
フランツ・カフカ Franz Kafka 原田義人訳 「城」
...いったいKは何を考えているんだろう? どんな奇妙なことを頭のなかで思い描いているんだろう? 何か特別なことでも手に入れようというのだろうか...
フランツ・カフカ Franz Kafka 原田義人訳 「城」
...夫婦って、奇妙なものよ...
火野葦平 「花と龍」
...古代法の奇妙な規則...
穂積重遠 「法窓夜話」
...ジョウはいかにも奇妙なふるまいが多かったので...
ルイザ・メイ・オルコット L. M. Alcott 水谷まさる訳 「若草物語」
...それは奇妙な、いま初めて会う人を見るような眼つきであった...
山本周五郎 「季節のない街」
...それは有り得べからざる奇妙な出来事のような気がして来て...
横光利一 「比叡」
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