...折しも、通りすがった二人づれ――対(つい)の黄八丈(きはちじょう)を着て、黒繻子(くろじゅす)に緋(ひ)鹿(か)の子(こ)と麻の葉の帯、稽古(けいこ)帰りか、袱紗包(ふくさづつみ)を胸に抱くようにした娘たちが、朱骨の銀扇で、白い顔をかくすようにして行く、女形(おやま)を、立ち止って見送ると、「まあ、何という役者でしょう? 見たことのない人――」「ほんにねえ、大そう質直(じみ)でいて、引ッ立つ扮装(なり)をしているのね?誰(だれ)だろう?」と考えたが、「わかったわ!」「わかって?誰(だ)あれ?」「あれはね、屹度(きっと)、今度二丁目の市村座(いちむらざ)に掛(かか)るという、大坂下りの、中村菊之丞(きくのじょう)の一座(ところ)の若女形(わかおやま)、雪之丞(ゆきのじょう)というのに相違ないでしょう――雪之丞という人は、きまって、どこにか、雪に縁のある模様(もよう)を、つけているといいますから――」「ほんにねえ、寒牡丹を繍(ぬ)わせてあるわ」と、伸び上るようにして、「一たい、いつ初日なの?」「たしか、あさッて」「まあ、では、じき、また逢えるわねえ...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...大坂下り雪どのの――中村座の雪之丞どのの宿があらばと――たずねてたも――」浪路が...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
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