...彼は、唯、両手を膝の上に置いて、見合ひをする娘のやうに霜に犯されかかつた鬢(びん)の辺まで、初心(うぶ)らしく上気しながら、何時までも空になつた黒塗の椀を見つめて、多愛もなく、微笑してゐるのである...
芥川龍之介 「芋粥」
...自分は天下唯一人志賀直哉に立ち向ふ時だけは全く息が切れる...
小穴隆一 「二つの繪」
...今こそその身が人生の快楽の唯中に置かれてあるやうな気がして...
田山録弥 「海をわたる」
...それが唯一の生きて行く道であるように見えた...
寺田寅彦 「科学と文学」
...唯一臺來た自動車を市の共議で排斥したと云ふ...
徳冨蘆花 「熊の足跡」
...政友会にとっては今やこの道が唯一の頼みの綱なのである...
戸坂潤 「現代日本の思想対立」
...正確には唯物論のことに他ならない...
戸坂潤 「辞典」
...『唯物論研究』(唯物論研究会)...
戸坂潤 「読書法」
...唯(ただ)何となくそういう気がするだけである...
中谷宇吉郎 「簪を挿した蛇」
...唯昨夜(ゆうべ)のように……」「イイエイイエ...
二葉亭四迷 「浮雲」
...* ここに私は發展形式(Entwicklungsform)といふ語をマルクスが彼の唯物史觀を規定した句(Marx, Zur Kritik der politischenkonomie, Vorwort.)の中から轉用した...
三木清 「唯物史観と現代の意識」
...唯喰ツてゐると謂ツては...
三島霜川 「解剖室」
...そうして唯驚いて...
夢野久作 「近世快人伝」
...おぞましくも唯(ただ)性の労働に走るほかはなくなっている...
夢野久作 「東京人の堕落時代」
...この養蚕はこれら山駅の唯一の生命である...
吉江喬松 「木曾御嶽の両面」
...唯、その間に飛石のやうにぼつぼつと地方的な逸話だとか、他の武人と試合つた話とかが、稀々遺されてゐるに過ぎない...
吉川英治 「折々の記」
...唯々お身のお為を思う私の一念でござりますものを……淫婦の...
吉川英治 「剣難女難」
...杜興(とこう)は口惜しかったが、祝氏のおん曹司(ぞうし)たちが相手では怒りもならず、唯々、わけをはなして、哀願と陳弁とにこれ努(つと)めるほかなかった...
吉川英治 「新・水滸伝」
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