...窓より夏の日がさせば国貞(くにさだ)ゑがく絵草紙(ゑざうし)の「偐紫(にせむらさき)」の桐(きり)の花(はな)光(ひかる)の君(きみ)の袖(そで)にちる...
竹久夢二 「どんたく」
...『偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)』の版元(はんもと)通油町(とおりあぶらちょう)の地本問屋(じほんどんや)鶴屋(つるや)の主人(あるじ)喜右衛門(きうえもん)は先ほどから汐留(しおどめ)の河岸通(かしどおり)に行燈(あんどう)を掛(かけ)ならべた唯(と)ある船宿(ふなやど)の二階に柳下亭種員(りゅうかていたねかず)と名乗った種彦(たねひこ)門下の若い戯作者(げさくしゃ)と二人ぎり...
永井荷風 「散柳窓夕栄」
...それやこれやの事から世間では誰いうともなく好色本(こうしょくぼん)草双紙類の作者の中でもとりわけ『偐紫田舎源氏』の作者柳亭種彦は光源氏(ひかるげんじ)の昔に譬(たと)えて畏多(おそれおお)くも大御所様大奥の秘事を漏(もら)したにより必ず厳しい御咎(おとがめ)になるであろうとの噂(うわさ)が頗(すこぶ)る喧(かしま)しいのであった...
永井荷風 「散柳窓夕栄」
...凡(すべ)て偐紫楼(にせむらさきろう)と自ら題したこの住居(すまい)のありさまは...
永井荷風 「散柳窓夕栄」
...三筋(みすじ)も四筋も燈心(とうしん)を投入れた偐紫楼(にせむらさきろう)の円行燈(まるあんどう)は...
永井荷風 「散柳窓夕栄」
...この偐紫楼の深更(よふけ)を照す円行燈のみは十年一日の如くに夜としいえば...
永井荷風 「散柳窓夕栄」
...偐紫楼(にせむらさきろう)の燈火(ともしび)は春よりも夏よりも徒(いらずら)にその光の澄み渡る夜(よ)もやや深(ふ)け初(そ)めて来た頃であった...
永井荷風 「散柳窓夕栄」
...それからというもの偐紫楼の家の内は俄(にわか)に物気立(ものけだ)って...
永井荷風 「散柳窓夕栄」
...落語家万事、偐(にせ)紫、江戸紫、古代紫、紫、紫、むらさきのこと――芸の落ちゆく最後のお城、御本丸は、ついに「紫」以外の何物でもない、ないのだ...
正岡容 「小説 圓朝」
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