...人間同士が世間態というものを忘れてしまって...
中里介山 「大菩薩峠」
...何か力あって、この女性を後ろから嗾(けしか)けるもののように、「承知いたしました、わたくしは、あなた様のお申出でを、このまま素直にお受入れ致します」「うむ――」と言って、駒井甚三郎が、その足を大地に踏みこたえるように立て直して、「有難い――よく承知をしてくれました、今晩から、あなたは、わたしの妻です」「かような、これより以上の大事はないお申出でを、そのまま、この場でお受けする気持になった、わたくしというものの我儘(わがまま)をおゆるし下さい、わたくしは自分で、もう自分のことがわかりませぬ、無条件で、なんでもかでもあなた様のお申出でに従うよりほかに道がないことを犇(ひし)と身にこたえました、本来ならば、充分に考えさせていただいて、せめて今夜一晩なりとも、静かに考えさせていただいてから、最後の御返事をしなければならないのに、それをしないで、この場で、こんなに手軽く仰せに従う、わたくしというものの軽佻(かるはずみ)を定めてお心の中ではおさげすみになっていらっしゃるかと存じますが、わたくしは、もうさげすまれようが、賤(いや)しまれようが、左様なことを考えている余裕はないのでございます、今晩一晩考えさせていただいたに致しましても、明晩、明後日、一生涯考えてみましたとても、このお返事は考えてはできません、それ故に、この場で、あなたのお心に従います――それが、僭上であるか、男女の道に外れているか、いないか、世間態のために、あるべきことか、なかるべきことか、そんなことも、以前のわたくしならば、充分に考えている余裕がありましたでしょうが、今のわたくしにはそれがありません、あなた様が、当然のこととして、それをお申し出でになったように、わたくしも当然のこととして、それをお受入れ致します、誰が何と言っても、もはや怖れません、誰に対して済まないことになるか、済むことになるか、そんなことも一切はここで忘れ去ってしまっております、この、はしたない、慎しみのない女を、お憐(あわれ)み下さいませ」畢生(ひっせい)の力を振(ふる)って、こう言ったお松の舌は雄弁でした...
中里介山 「大菩薩峠」
...世間態を宜しく頼むぞ...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...父が世間態を気にして厭がつたのは無理もなかつた...
萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
...父は世間態を気にして...
萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
...さすがに春一も世間態をはばかったか...
浜尾四郎 「死者の権利」
...乗客がないということは世間態(てい)がないということになるのだ...
葉山嘉樹 「海に生くる人々」
...父が世間態をはばかって心配している気持を取り除こうとして...
フランツ・カフカ Franz Kafka 原田義人訳 「変身」
...和泉屋だって雷門だって世間態もあれば警察もこわい...
牧逸馬 「助五郎余罪」
...そして世間態ばかり気遣つて決して大声をあげないのが...
牧野信一 「熱い風」
...そんな言葉は一層世間態を慮(はゞか)つて...
牧野信一 「熱い風」
...貴様が近くに現れたんで世間態を恥ぢて外にも滅多に出ないんだぞ...
牧野信一 「鶴がゐた家」
...世間態も何もあつたものぢやありません...
牧野信一 「南風譜」
...それこそあなた達の世間態は綺麗でせうがね...
牧野信一 「南風譜」
...世間態のみを娘と偽つてゐるらしかつた...
牧野信一 「るい」
...いわばかりそめの世間態だ...
吉川英治 「私本太平記」
...世間態(てい)もある...
吉川英治 「新・水滸伝」
...屑屋は世間態(せけんてい)だけなのね」「もし...
吉川英治 「鳴門秘帖」
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