...「あたしゃ一と眼で臭いなと思ったわ、一と眼でよ」とかなえは鼻を反らせた、「肝の浅い人間はなんでもすぐ顔に出ちゃうからね、あの人ったら右と左の靴をとっちがえにはいたまま、これから百マイルも走らなきゃならない、っていうような顔をしていたよ、あたしゃ十円一個やらなかった、アディオス、あんなことじゃ生れたばかりの赤んぼだって騙(だま)されやしないよ」かつ子のことには触れたくなかったのか、彼女は饒舌りたいだけ饒舌ると、金を置いて去った...
山本周五郎 「季節のない街」
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