...彼はもうその時にはまともにこちらを眺めていた...
芥川龍之介 「春」
...正面(まとも)に臨風榜可小楼(りんぷうぼうかしょうろう)を仰ぎながら...
泉鏡花 「歌行燈」
......
種田山頭火 「行乞記」
...幾はその顔をまともに見ることさへ出来ない思をした...
田畑修一郎 「鳥羽家の子供」
...上院議員と司教とはまともには妙に顔を見合わせ悪(にく)いものだが...
ビクトル・ユーゴー Victor Hugo 豊島与志雄訳 「レ・ミゼラブル」
...「落着くところに落着くという結論は、成るようにしか成らぬという論理と同じことなんだ、なりゆき任せに手を拱(きょう)していることができない、落着くべきところに事物を落着かせ、成るべきように国家を成らしめんがためにこそ、我々は身命を顧みず東奔西走しているのだ」「それはまた至極同感である、同感であるというのは、感服という意味ではない、その意見も、要領を得たようで、要領を得ないことは前者と同じである、すなわち、問題は落着くべきところに物を落着かせるという、その落着くべきところはドコなんだ、成るべきように国家を成らしむという、その成らしむる究竟目的というものを、諸君ははっきりと指示ができるのか――」肯定と否定とを同時にして究竟問題を提出した一人の壮士、それを判者面の南条力が、「君たちは定義を先に立てて置いて、弁証を後にするから、それで徒(いたず)らに抽象にはせて、意余りあって情が尽せないことになるのだ、冷静な逐条審議から出直して見給え、当世流行の科学的というやつで……」「なるほど、細目をあげて、しかして大綱に及ぶという帰納論法をとって見る方が、斯様(かよう)な時にはわかりが早いかも知れぬ」「では……」南条が咳(せき)ばらいをして、「いいかい、では、その落着くべきところという命題をまず、とっつかまえて俎(まないた)にのぼす――その落着くべき筋道が幾筋もあるということを、さいぜん北山君が言ったが、単に幾筋もあるではいけない、それでは当世流行の科学的ということにならないから、幾筋なんぞとぼかさずに、五筋なら五筋、六筋なら六筋と明確に数を挙げてもらいたい、これも当世流行の数学的というやつで、つまり、昔の塵劫記(じんこうき)で行くのだ」「そう言われると、そうだなあ、その落着くべき道というのが幾筋あるかなあ」正直な北山は、注文をまともに、あれかこれかと胸算用をはじめて、急には埒(らち)が明かないのを南条が突っこんで、「胸算用はやめて、まず、頭に浮んだ一筋ずつを言って見給え、そうして、一筋ずつ抽(ひ)き出して、抽き尽した後に寄算をしてみれば容易(たやす)くしてくわしい」「君は算者(さんじゃ)だ」北山は、南条の頭のよさに敬服する、南条の頭がいいのではない、自分の頭が鈍に過ぎるのだ、と申しわけたらたらで、勧告された通り、逐条列挙に思考を換え、「まず、今の天下が落着くべき筋道としては――例を挙げてみるのだよ、そこに落着くのが正しいとか、そこに落着きそうだとかいうの判定ではないよ、例を幾つも挙げてみるんだから、これが拙者の希望であり、意見であるように取られては困るよ」「そんな申しわけはせんでもいい、早く第一条を言い給え」「まず、今まで通り徳川の天下に安定するというのが最初の筋道として」「次は」「幕府が政権を朝廷に返し奉る、王政復古の筋道」「次は」「王政復古が成らずして、畏(かしこ)くも建武の古例を繰返すような事態が到来したとして、いや、そうでなくとも、徳川幕府につづく第二第三の幕府が出来るとして見ると」「徳川幕府以外の幕府の成立を予想してみる、なるほど」更に第四条件にうつろうとする時、横合いから口を出し石井権堂というのが、「その科学的とやら数学的とやらいうところを、もう一層細かく、単に徳川幕府以外の幕府が、成立とかなんとかの仮定条件では物足りない、徳川幕府に代る幕府が成立するとすれば、誰が代るか、それをひとつ具体的に言ってみてもらいたいな」「まず、薩摩か」「まず、長州か」「毛利だろう」「島津だろう」この二つは動かない、誰も、それを上下したり、左右にしたりして見ることはするが、それ以外のものを加えて見ようとはしない...
中里介山 「大菩薩峠」
...塀(へい)に足を掛(か)けた途端(とたん)に一道の殺気が森閑(しんかん)とした家の中から奔(はし)り出てまともに額(ひたい)を打ったので...
中島敦 「名人伝」
...しかし津田がどうしたというんです」「聞きたいですか」鋭どい稲妻(いなずま)がお延の細い眼からまともに迸(ほとば)しった...
夏目漱石 「明暗」
...まともな人間には判らない」不意に縛られた友衛は立上がりました...
野村胡堂 「銭形平次捕物控」
...うるさいな」「あれがまともでない人間で――」振り返ると段の中ほどのところに立って...
野村胡堂 「銭形平次捕物控」
...お役人が正面(まとも)に採つて...
野村胡堂 「錢形平次捕物控」
...まともな食事をするのをめんどうくさがって...
久生十蘭 「キャラコさん」
...まともに篁の胸を狙いはじめた...
久生十蘭 「地底獣国」
...みんなこうで! まともな死に方さえ嫌いなんだ!』――『ときに君たちはどうしたんだい?』と彼はプリューシキンの逐電した農奴たちの名前の載っている紙片に眼をうつしながら...
ニコライ・ゴーゴリ Nikolai Vasilievitch Gogolj(Николай Васильевич Гоголь) 平井肇訳 「死せる魂」
...まともに相手の顔を見ることすらもできぬのである...
平林初之輔 「人造人間」
...まともな商売じゃないようだ...
フレッド・M・ホワイト Fred M. White 奥増夫訳 「謎の四つ指」
...栄二の顔をまともにじっとみつめた...
山本周五郎 「さぶ」
...電燈の光りをまともに浴びながら...
夢野久作 「一足お先に」
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