...その時だけは小按摩が決して坐睡をいたさないでござります...
泉鏡花 「怨霊借用」
...人生の憂苦をその時だけ忘れるを以(もっ)て「慰め」と思っている...
内村鑑三 「ヨブ記講演」
...いつもは力んでいるくせにヘマばかりやる同年者の感じだったが、その時だけは、異質の場所にいる二見という人間をおれは感じたんだ...
梅崎春生 「赤い駱駝」
...その時だけだからね...
梅崎春生 「幻化」
...実際の戦争にはその時だけの臨時費ではあるが...
丘浅次郎 「民族の発展と理科」
...そうして、そのひとの眼に、何の邪心も虚飾も無く、僕は女のひとと視線が合えば、うろたえて視線をはずしてしまうたちなのですが、その時だけは、みじんも含羞(はにかみ)を感じないで、二人の顔が一尺くらいの間隔で、六十秒もそれ以上もとてもいい気持で、そのひとの瞳(ひとみ)を見つめて、それからつい微笑んでしまって、「でも、……」「すぐ帰りますわよ」と、やはり、まじめな顔をして言います...
太宰治 「斜陽」
...自分がその家を見に行ったのはその時だけである...
谷崎潤一郎 「細雪」
...その時だけはほんまにほっとして助かったような気イしましてん...
谷崎潤一郎 「卍(まんじ)」
...その時だけは顔色が美しい桜色をして目の光もなんとなく生き生きしているようであった...
寺田寅彦 「B教授の死」
...それからとにかく増資のことを大体聞き出しましたが、そういう風ないきさつは、実家にいる時、また結婚先でも、いろいろ耳にしたことがありましたのに、その時だけは、へんに憤慨めいた気持がわいてきました...
豊島与志雄 「女と帽子」
...刑事は、いつも、きつい目をしてにらみ据える人間だつたが、その時だけは、だまつて、窓に向つて歩いて行つて、じつと空をしばらく見上げてゐた...
中井正一 「雪」
...その時だけは愉快な心持がしました...
夏目漱石 「こころ」
...呑気(のんき)な僕もその時だけは大(おおい)に感動した...
夏目漱石 「吾輩は猫である」
...おまっちゃんもあたしもその時だけは先生を憎んだ...
長谷川時雨 「源泉小学校」
...その時だけが、二人をしみじみと近いものにしてゐるやうな気がして、富岡は眼を閉ぢたまゝ、おせいの唄を聴いてゐたものだ...
林芙美子 「浮雲」
...康子はその時だけちよつと片附けてみるものの...
原民喜 「壊滅の序曲」
...後にも先にもその時だけなのである...
山之口貘 「野宿」
...老鶯(ろうおう)はその時だけちょっと啼きやんで歌口を憩(やす)めた...
吉川英治 「剣難女難」
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