...どぶ板を、無遠慮に踏んで、路地奥にはいって、磨きの格子戸――まだ雨戸がはいっていない、小家の前に立つと、ためらわずに、「御免ねえ! ちと、急用だが――」どこまでも、無垢(むく)のものらしく住みなしている一家――ばあやが平気で出て来て、「どなたさんか? おかみさんは、ちっと用があって出て、戻りませんが――」「それじゃあ、上げて貰って待って見よう――ちっと、大事な話なんで――」ばあやは、透かして見て、遊び人が、何か筋をいいに来でもしたかと思ったか、「でも、今夜は、遅いから、あしたのことに――もう、お前さん、夜更けですよ」一九闇太郎と、婆やとの押問答が、二階に聴えたと見えて、晩酌に一本つけて貰って、女あるじ――女親分の留守の間を、楽々とごろ寝を貪(むさぼ)っていた例のむく犬の吉むくりと起き立って、鉄火な口調がまじっているので、さては、探偵手先(いっけんもの)か? それとも、弱身を知っての押しがりか? と、耳をそば立てたが、そのまま、とんとんと、荒っぽく、段ばしごを駆け下りて、「誰だ、誰だ? 何だ? 何だ? こう、小母さん、退(ど)きねえ――」と、婆やを、かきのけるように格子先を、白い目で睨(にら)んで、「おい、おまはん一てえ、どこのどなただ? よる夜中、ひとの格子をガタピシやって、どぎついことを並べるなあ、あんまりゾッとした話じゃあねえぜ!」と、まず、虚勢を張って見る...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...おまはんが現に手を出しかけていることから...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...お初さん、お互に江戸ッ子――かよわいからだ、大敵を向うにまわした奴にゃあ、人情をかけてやりてえものだの――」闇太郎が、これだけ言って、相手の顔いろをうかがうと、お初は、眉(まゆ)を釣るようにして、紅い唇をぐっとひきゆがめ、さげすむように、じろりと一瞥して、「親分、おまはん、たのまれておいでなすったね――」二二お初は、嘲(あざけ)りのいろさえ見せて、闇太郎を尻目にかけるようにしながら、言葉を次ぐ...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...「わかった、出来るだけやって見ようが、――そのかわり、おまはんも、じっくり待つ気になって貰いてえ」「ああ、辛抱出来るだけ辛抱していますからね――まあ、三日四日にネ」闇太郎は、淋しいひびきを立てて、冷たい風が流れている往還へ出て、はじめて、ホッとすがすがしい息をした...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...その暁に、おまはんに、謀反気(むほんぎ)を起してずらかられでもしたら、法印も、これから世の中へ面出(つらだ)しが出来なくなる」「まだあんなことをいっている、疑ぐり深い人だねえ――」と、お初は明るく笑って、「ああ、いいことを思いついた...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...そんなにあたしのことが心配なら、うまい思案があるよ――二人で、いくらでもゆっくりのめる思案が――」「え? その思案てのを聴かせねえ――実は、おれだって、おまはんとなら、夜あかし飲んでいたいんだ」「ね、こうおしよ、おまえさんもこの窖に今夜は、あたしと泊ってゆくことにして、木ぶすまの錠をすっかり下ろして、鍵をふところにしまって置いたらいいじゃあないか...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...おまはんが決して...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...それというのも、おまはんが、程のいい人だからよ...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...おまはんの片腕となって...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...おまはんに負けました――と...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...おまはんの敵であろうはずはないけれど...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...あの、丑、為ときちゃあ、内藤新宿でも、狂犬(やまいぬ)のようにいやがられている連中、それを、何とまあ、二人一度に征討して、外へほッぽり出してしまったのだから、おまはんの、底ぢからは、程が知れないね――ところで、法印さん――」と、茶碗を突きつけて、「ま、息つぎに、一ぱいいかが?」こやつ昔はいずれ、宿場でも叩いた上りか、年にも似合わぬ色ッぽい声でいって、銚子を取り上げる...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...おまはんの刃にかかった奴は...
三上於菟吉 「雪之丞変化」
...ひっかけ帯で横にすわりながらおゆきがそういうときとよく似た声の調子でおまはんと云ったとき...
宮本百合子 「菊人形」
...ゆきのおまはんの由来を理解したよりもあとのことだし...
宮本百合子 「菊人形」
...……時に、変なことをきくようだが、おまはん達ゃ、なんだね? へへへへ...
吉川英治 「江戸三国志」
...おれは江戸の者だが、おめえはやはり山の衆かい」と、答えると相手は俄かに嗜眠(しみん)状態の神経をゆりさまして、「ほ……江戸、お前さん、江戸の者……」「そうだ、ことばつきでも分るだろう」「アア、久しくその江戸弁も聞いたことがなかった」「――と言うと、おまはんも、江戸の人かい」「うむ」と、がっくり首を下げたふうです...
吉川英治 「江戸三国志」
...おまはんみたいな野暮天(やぼてん)の袂クソなんざ...
吉川英治 「新・水滸伝」
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